研究概要 |
本研究の目的は,習慣形成が国際間の所得格差に与える影響を,世代重複モデルを用いて理論的に明らかにすることにある。本年度は,研究計画に示した通り,International Institute of Public Finaliceに参加し最新の研究動向を調査した。また,カターニャ大学へ1ヶ月半滞在し,そこでの研究を通じで、研究の深化を図った。 また,研究計画の習慣形成の影響に加えて,出生行動が貿易を通じて経済成長に与える影響についていくつかの研究会で報告した。そこで構築したモデルは,従来の新古典派成長モデルに,子供の数から効用を得、一方で、子供を養育することによる機会費用がかかる個人を加えるものであり,これは先進国・発展上国での出生率の低下の原因の一つとなっているものである。そして,時間選好率の差(または子供の数への選好の大きさ)に起因して貿易が生じるときにどのような貿易パターンと経済成長パターンが生じるかを分析した。その結果,習慣形成や出生率の選択などの需要側の行動が供給側の行動に影響を与えるときに従来の(出生率が内生化されていない)モデルでは得られない結論が得られた。具体的には,通常,貯蓄率の高い国は貿易がおこなわれると,資本を流出させてしまうため,GDPを低下させることとなるが,このモデルでは,消費財が資本集約的である場合に,リプチンスキー効果を通じて,GDPを上昇させる可能性があることを示すことができた。 このような出生率の問題が国際間の所得不平等に影響していることは明らかである一方,上記の結果は,新古典派成長モデルでは明らかにされておらず,本研究への新たな知見として継続して分析を進める必要のあるものである。
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