研究概要 |
本研究の目的は,消費および人的資本への習慣形成が国際間の所得格差に与える影響を,世代重複モデルを用いて理論的に明らかにすることにある。今年度の研究実績は,下記の2点にまとめられる。 第1に,消費の習慣形成のある小国開放経済モデルを構築し,貿易が当該国の所得水準に与える影響を明らかにしたことである。一般的に,資本財の輸入国は,それによる資本の蓄積によって経済成長を達成することができる。しかしながら,本研究のように習慣形成がある場合は,資本財を輸入し(=労働集約的な消費財価格が上昇し),賃金所得が上昇する際に,消費習慣からの効用を得るために所得をさらに消費にさかなければならない。これは資本の蓄積を阻害する要因となり,したがって,所得水準の増加を妨げる要因になる。これは消費習慣形成の度合いが強ければ常に成り立つものであり,国際間所得格差を説明する要因の一つといえる。 第2に,人的資本の外部性が存在する場合の内生成長モデルを構築し,人的資本の外部性によって貧困の罠を導く可能性があることを明らかにしたことである。一般的に教育による人的資本の蓄積は経済成長のエンジンになることが,既存の多く研究から明らかにされている。他方で,本研究の特色は,親は自分の効用水準に子の人的資本水準が近づくことで効用を得るという外部性を考慮していることにある。これにより,親は必要以上に教育投資を行い,貯蓄を減少させるため,かえって経済成長を妨げることが明らかにされた。これは所得水準の低い国の親の教育が更なる貧困を生む可能性を示唆している。
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