実証分析の際に必要となるミクロデータの収集と整備を進め、海外業務委託とR&D活動との関係について企業レベルのミクロデータを利用した実証分析を実施した。この分析結果をTechnological Knowledge and Offshore Outsourcing : Evidence from Japanese Firm-level Dataという標題で学術論文にとりまとめた。分析では、日本の製造業企業のミクロデータを利用して、企業の業務委託モードを識別可能な4つ((1)海外サプライヤー・資本関係有り、(2)海外サプライヤー・資本関係なし、(3)国内サプライヤー、(4)外部委託なし)に識別し、業務委託の選択と企業の研究開発レベルとの関係を多項ロジット分析により実証的に明らかにしている。分析結果から、選択に影響を及ぼすと考えられる企業属性の中で、R&Dと特許保有の有無が与える影響の度合いが最も顕著であることが判明した。また、海外への業務委託はR&D集中度が高い企業ほど盛んであるものの、業務の委託先は海外のグループ子会社であり、技術流出や訴訟リスクを恐れて内部化していることが示された。さらに、たとえ企業外への業務委託を選択しても特許権によって自社の技術知識が保護されるならば問題とならないことも考えられたが、この内部化の傾向は特許保有企業であるほど強く見られた。こうした結果は海外への技術輸出促進に向けた政策立案に一定の含意をもたらすものと考える。政府は知的財産計画の中で、現在2兆円規模の技術輸出額を3兆円に増額させる目標を立てている。他方で技術輸出の多くは海外サプライヤーへの技術供与に向けられており、海外業務委託と表裏一体の関係にある。技術輸出促進のためには、R&D集約的な企業の多くが最も効率的な調達形態として海外子会社からの調達を選択しているという実態に留意する必要がある。
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