初年度に引き続き企業レベルのミクロデータ整備を進め、企業の国際化と研究開発(R&D)活動との関係について実証分析を進めた。第一に、日本企業の海外業務委託とR&D活動との関係について分析を実施した。この分析では、業務委託の選択と企業のR&Dとの関係を多項ロジット分析により明らかにしている。結果から、選択に影響を及ぼすと考えられる企業属性の中で、R&Dと知的財産権保有の有無が与える影響の度合いが最も顕著であることが判明した。また、海外への業務委託はR&D集中度が高い企業ほど盛んであるものの、業務の委託先は海外のグループ子会社であり、現地での技術流出を防ぐ狙いから内部化していることが示された。さらに、たとえ企業外への業務委託を選択しても特許権によって自社の技術知識が保護されるならば問題とならないことも考えられたが、この内部化の傾向は特許保有企業であるほど強く見られた。同様の分析を技術輸出とR&D活動との関係、海外直接投資とR&D活動との関係についても実施し、これらの結果については著作図書としてとりまとめた。分析から業務委託の場合と同様に、こうした企業の国際化とR&D活動との間には相互補完的な関係があることが判明した。すなわち、R&D集約的な企業ほど国際化に積極的であり、とりわけ直接投資を通じた企業内取引に従事する企業ほどR&D活動が活発である。このような国際化とR&D活動の補完的な関係は、企業の生産性にも影響を与えている。国際化の生産性への影響に関しては、海外生産がその後の国内生産性を4~5年の時間的なラグを持って上昇させることが示された。直ちに生産性が上昇しないのは、企業内の資源再配分や、学習効果が結実するまでに時間を要するためと考えられる。これらの分析に加え、企業の国際化が仕向地の経済にどのような影響を与えているかに関しても中国の企業データを基に分析を拡張した。
|