本研究「情報通信産業における構造規制と行為規制の政策シミュレーション分析」では、日本の情報通信産業における競争促進政策における、構造規制と行為規制の組み合わせからなる政策パッケージの効果について、理論・実証の両面から研究を行う事を目標とした。 本年度は、昨年度の理論の論点整理、並びに政策の論点整理に基づき、構造モデルの構築・推定を行った。作成したモデルでは、通信事業者が携帯電話市場に参入する際に、W-CDMAとcdma2000のいずれの技術で市場に参入するか、参入しないかを決定し、市場に参入した事業者は製品差別化されたベルトラン競争を行う。参入行動とその後の市場行動の関連を実行可能な時間で分析するため、2-step approachと呼ばれる手法を採用した。本手法では、市場に参入した事業者が毎期の状態変数に応じて行う戦略変数(価格)の選択を第1段階目の推定とし、第2段階目の推定では第1段階で推定されたパラメータを用いて技術の選択と参入の決定を推定する。現時点ではこの2step approachの第1段階目となる、毎期の需要関数パラメータの推定を行った。第1段階目の推定により、携帯電話のネットワーク効果は国内のみならず、海外とのローミングや機器の輸出入を通じて海外市場からもネットワーク効果の影響を受ける事が明らかになっている。しかし、第2段階目となる参入の意思決定のパラメータは推定途中で有り、政策シミュレーションを実施するには至っていない。 今後は参入の意思決定に関する構造パラメータを推定し、第三世代の携帯電話の参入において、発行免許数の増加や国による技術の選択が事業者の価格設定に与える影響を分析する。また、行為規制として事業者の普及率に関する目標設定や技術選択に関する規制がいかなる構成への影響を持つかを分析し、第4世代携帯電話の市場構造や技術標準のあり方について提言を行う。
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