日本の障害者雇用施策の主旨は二つある。第一に、障害者の雇用促進と安定を図ること、第二に、企業が障害者を雇用するために被る負担のアンバランスを調整することである。本研究の目的は、障害者雇用にかかる企業の負担が均一であるか否かを、2003年から2006年の東京・大阪労働局管轄下にある企業の財務データを使用して、計量経済学的に厳密な形で明らかにし、日本の障害者雇用施策の二つ目の主旨が達成されているかを確認する。その次に、障害者の雇用促進の有無を量的な分析で明らかにし、日本の障害者雇用施策が円滑に機能しているか否かを厳密に分析することである。 本年度は、(1)これまでに行った、施策が株価に与える影響と、施策が企業の障害者に対する労働需要に及ぼす影響を分析した研究を精緻化させ、国際コンファレンスで報告した。これらの研究は、いただいたコメントを反映させ、英文の形でまとめ上げて査読付き雑誌に投稿中であるが、残念ながらまだ掲載には至っていない。 また、(2)この研究と障害者の福祉的就労を分析した研究を、東京大学で行われた障害者に関するオムニバス講義で紹介し、研究成果全体の普及を試みた。また、この期間、文献調査過程の途中で、日本の障害者雇用施策には差別を禁止する機能が組み込まれていないことを発見した。そこで、(3)現在法制化の議論がなされている差別禁止法の追加的な導入が、経済効率性という点から正当化されるためには、日本の障害者の労働市場に統計的差別が存在していることが必要だが、その可能性が高いことを明らかにした。この成果はより精緻化させて、海外の査読付き雑誌に投稿する予定である。
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