研究概要 |
本研究では、Pakes and Schankerman (1984)が提示し特許価値の推定手段の1つとして研究が積み重ねられてきた特許更新モデルについて、モデルの設定の妥当性と拡張について実証的に検証している。このモデルでは、初期の特許収益分布が毎期一定割合で減耗していくと仮定されており、初期収益分布に関しては先行研究でさまざまな検討が見られるが、毎期一定割合で減耗していく点に関しては十分に議論されてこなかった。そこで、本研究ではこの点に注目し検証を行っている。 本研究についてモデル・データ・推定の観点から、下記に本年度の主な実施内容を記す。 ・データ:(財)知的財産研究所で公開されているIIPパテントデータベース(20110330版)を入手し、分析データの作成を行った。データベースは1964年1月から2010年3月までに出願公開・登録された特許(出願件数11,731,048件、登録件数3,749,986件)を収録しているが、本研究では特許制度の変更を考慮し、1980年以降に出願され、後に登録されたデータを対象としている。 ・推定:特許権者の離散的意思決定を仮定するかによって推定方法が異なるため、その点についても検討した。Pakes and Schankerman (1984)は非線形最小二乗法であるが、その後初期収益分布にlog-normalを仮定し、更新料が上昇する数年毎に意思決定を行うと想定するordered probit modelの研究(Bessen, 2008)も見られる。前述のデータを用いて、登録後の残存率を計算し、特許権者の意思決定を観察した。日本では、登録時に3年分の更新料を納めるため、はじめの3年間で権利消滅はほとんど発生しないが、その後は毎年更新の意思決定を行っており、本研究では数年毎の意思決定を想定した推定方法は適切ではないと判断された。
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