中小製材業者に広くみられ、地元指向・直接出荷・多品種少量生産に特徴づけられる「小売主体型」の製材業が、地域社会や製材品市場において果たしてきた役割と、今日急激な縮小に直面している要因を、統計・資料の検討と、山形県最上地方を事例とする実態調査により明らかにした。 小売主体型の製材業は、かつては、地方市場における木材流通機構の未整備や、住宅建築業の零細性に伴う諸問題(資金や人手の不足など)を補う役割を果たし、中小規模層の製材業者にふさわしい形態として合理的に存立しえた。しかし、1990年代に入ると、ハウスメーカー(大手住宅建築業者)やプレカット加工業の地方進出が活発化したことで、地方市場にも木材流通機構の整備が進むとともに、小売主体型の主要な得意先のなってきた地場大工・工務店(小零細規模の住宅建築業者)のシェアが顕著に低下し、小売主体型はその存立基盤を失っていった。このような変化を受けて、中小製材業者は急速に減少していったが、同時に、存続企業の間にも、小売主体型を維持できず、出荷先を都市部の木材市場へとシフトさせる動きが広がった。市場への出荷は、一般に、利幅が小さく、高能率の製材ラインを導入して低コスト化を図らなければ採算を取ることは難しい。しかし、聞き取り調査において、1990年代以降に市場向けにシフトしたとする製材業者はいずれも、十分な設備投資を行ったうえで出荷先を変えたわけではなく、存続が危ぶまれる状況にある。 小売主体型製材業を核とする住宅サプライチェーンは地域完結的であり、それゆえに、地域の社会・経済にとって大きな意味を有する。住宅市場の構造変化に対応し、存続を担保しうる方法を早急に見出す必要がある。
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