合併・買収は、規模の拡大、新技術の獲得、新事業への参入等を短期間で実現する手段としてその重要性を増しつつある。ただし、我が国で行われている合併・買収には、不況や競争の激化に対応するための、合理化を目的とした組織再編が多いと考えられる。しかし、その場合でも、合併という組織変化は企業の研究開発能力や技術力に少なからぬ影響を及ぼしているはずである。したがって、この影響を考慮しない短視眼的な合併は、技術力の低下を通じて長期的には企業の競争力を低下させる恐れがある。 本研究の目的は、合併による研究開発・特許化活動に対するシナジー効果の有無や、合併が技術の創出・活用能力に及ぼす影響を明らかにすることである。データの制約から分析対象は限られているが、分析結果は、我が国で多く実施されている合理化を目的とした合併が、それに伴う事業整理や選択と集中により、研究開発投資や特許出願件数を大きく減少させることを示している。また、合併による研究開発や特許活動に対するシナジー効果はほとんどなく、むしろ組織の機能が完全に統合されるまでに時間がかかることから、一時的に技術の利用機会を低下させることも示唆している。他方で、事業整理等の合理化は研究開発効率を上昇させる効果があることも確認された。 すなわち、競争の激化や経営環境の悪化に対応するための合理化を目的とした合併は、研究開発投資や特許出願の絶対水準を減少させ、長期的な競争力の低下をもたらす可能性があるが、他方で、研究開発効率を高めるという側面もある。したがって、合併の意思決定に際しては、両者の影響を考慮して長期的な観点からの意思決定を行う必要があると言える。
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