研究概要 |
本年度は前年度までの準備を踏まえて政府(官僚)機構と研究開発を行うR&D企業による結託が存在する状況で,政府による知的財産保護政策とイノベーションの程度が決定されるメカニズムを分析した。特に政府が短期的視野を持つ場合に,政府がR&D企業から賄賂などの利益供与を受け取る見返りに,知的財産保護水準を高めるインセンティブを分析した。分析の結果,研究開発の促進は政府による知的財産保護のインセンティブを高め,それがさらなる研究開発を促進するという正の好循環が存在することが明らかとなった。またより清廉な政府ほど経済全体のイノベーションを促進することも示された。一方で知的財産保護水準については,政府の清廉度と知的財産保護水準の間にU字型の関係があることが明らかとなった。これは発展途上国ほど知的財産保護のインセンティブが弱められる傾向があることを意味しており興味深い帰結であると考えられる。 一方で本年度はAcemoglu, Antras, and Helpmanによる契約と技術選択に関するフレームワークを拡張して,企業と部品サプライヤーとの間の契約可能性が,企業による研究開発に対してどのような影響を与えるかのかについても分析した。この研究は直接的に知的財産保護政策を扱うものではないが,企業と部品サプライヤーとの間の契約の不完備性を分析しており,知的財産保護政策の強化はこのような不完備性を軽減する効果があることが期待されるため,科研費の研究内容の一部として分析を行った。分析の結果,企業と部品サプライヤーの間の契約の不完備性が軽減されるほど,むしろ経済全体の研究開発活動が弱まっていく可能性を示した。これは特に経済全体の資源配分(特に労働)を考慮することが重要であることを示している。 本年度は上記の結果を国際コンファレンスや国内学会で発表することができた。またこれらの成果を得る過程で昨年度と同様に国内の研究会(九州大学,神戸大学)にも積極的に参加した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い,知的財産保護政策の国際的波及効果について分析を行う予定である。この点については過去にも2国モデルを用いた政策ゲームの分析を行った経験があるため十分に実施可能であると考えている。また本年度は知的財産保護政策の要因について,モデル分析を基礎とした実証分析を行いたい。多忙になることも予測されるがリサーチ・アシスタントを雇用する,もしくは実証分析を専門とした研究者の助言を仰ぐなどして,効率的に研究を進めていきたい。
|