平成24年度は前年までの研究をさらに推し進め,いくつかの成果を得た。まず前年度に行った研究をもとに,政府の腐敗度や政治献金がどのような形で知的財産保護政策や経済成長に影響するのかという問題について,モデル分析を行った。分析の結果,政府が腐敗しており,政治献金による利得を高く評価している場合には,政府はより多くの利得を得るために,知的財産保護政策を強化し,企業によるイノベーションを促進させる可能性があることを示した。この帰結はロビー活動や政治献金などのレントシーキング活動がむしろ生産性の向上に寄与可能性を示唆している。また政府が腐敗的であるならば,利潤における献金比率の上昇は知的財産保護政策の強化を促し,イノベーションを促進することも明らかになった。一方で政府がクリーンであるならば,献金比率の上昇はかえって研究開発のインセンティブを阻害することから,知的財産保護政策を弱め,イノベーションは低下することも示された。これらの点について2012年度の日本応用経済学会で研究報告を行い,現在,金沢大学経済学経営学系のディスカッションペーパーとして公表されている。 また本年度は,科研費をもとに過去に行った研究を拡張し,その内容を研究書(論文集)に取りまとめ,公表した。具体的には知的財産保護の知的財産保護の最適水準と保護の国際的波及効果そして国際的に統一された知的財産保護政策の実施可能性について分析を行った。特に各国政府が自国の経済厚生のみに関心を持つとき,各国の設定する保護水準は経済成長を促進するうえで過少になること,特に途上国は自前の研究開発能力が低いために先進国と比較して弱い保護水準を設定する要因があることを明らかにした。これらの点については,坂上智哉・片桐昭司・伊ヶ崎大理編『応用経済学:成長と政策』の第2章「開放経済における知的財産保護と経済成長」に取りまとめられ,出版された。
|