研究概要 |
本研究では1990年代以降の日本に関する実証分析を中心に行っている。平成22年度においては,低い国債金利における財政破綻のリスクプレミアムについて分析した。通常,政府債務の増加によって財源確保が困難になると,政府はインフレによってその財源を得ざるを得なくなる。そのため,ハイパーインフレは政府の破綻によって生じる。財政の物価理論はそのような考えに基づくものだが,日本では実際にはそのような事態は生じてこなかった。しかしながら,本分析ではこれらの理由について再考するとともに,金融面での原因を考える。まず,平成22年度で分析するのは,デフレ気味ではあったが物価が安定した2002年以降の状況が国債利子率の低位推移に与えた影響である。 具体的な分析方法は,理論分析として物価の期待値と利子率の関係を示すフィッシャー方程式の拡張を考えた。特に,物価の期待値のみならずその変動から生じる不確実性をこの式に導入した。将来の物価変動に不確実性が存在すれば,,当然,その分のリスクを考慮して,長期の名目利子率は高めに設定される。一方で,安定的であればリスクプレミアムは小さくなる。物価変動のリスクプレミアムが低まれば,翻って国債の名目負担は減少するから,乗数的な効果で債務負担の軽減が実現する。国債の金利にかかるリスクプレミアムは債務残高にかかるが,日本では債務残高の増大にもかかわらず国債金利は低い。本研究では,その点を政府が借入れ制約に直面するまではリスクプレミアムが小さく,制約に直面する時点で非線形的に増大することを示した。 次に,このような理論的考察から得られる債務水準と実際の水準とを比較した。具体的には,2002年以降の物価変動が現在の状況と異なっていた場合や,プライマリーバランスの2011年度までの黒字化政策が行われなかった場合,あるいは経済成長率が高かったり低かったりした場合の債務残高をシミュレーションによって求め,実際の値と比較した。政府の借入れ制約を導入してモデル分析を行ったが,借り入れ制約は経済状況に応じて変化する。経済状況が悪い場合にプライマリーバランスの赤字が大きいと,リスクがより強く生じることになることが示された。
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