研究概要 |
本研究は世界金融危機後の経済政策,特に財政政策にかんする効果と負担を分析するものである。平成23年度では,日本の政府債務がさらに積み重なると共に低金利が継続するという状況で,政府債務が物価変化率からどのような影響を受けるかを主に研究した。なお,日本においては東日本大震災,海外に於いてはEUの債務危機等,当研究が当初想定しなかった状況も生じた。本研究とこれらの事象についての関係については研究を進めているところである。 これまでの研究で,低い国債金利における財政破綻のリスクプレミアムについて分析している。通常,政府債務の増加によって財源確保が困難になると,政府はインフレによってその財源を得ざるを得なくなる。ハイパーインフレは政府の破綻によって生じる。将来の物価変動に不確実性が存在すれば,その分のリスクを考慮して,長期の名目利子率は高めに設定される。一方で,安定的であればリスクプレミアムは小さくなる。物価変動のリスクプレミアムが低まれば,翻って国債の名目負担は減少するから,乗数的な効果で債務負担の軽減が実現する。国債の金利にかかるリスクプレミアムは債務残高にかかるが,日本では債務残高の増大にもかかわらず国債金利は低い。本研究では,その点を政府が借入れ制約に直面するまではリスクプレミアムが小さく,制約に直面する時点で非線形的に増大することを示した。 本年度はさらに物価変化の政府負担への影響を分析した。すなわち,通常は上記のようなリスクプレミアムはフィッシャー方程式においてごく小さいものとして,近似化の課程で省略される。本研究ではその近似化が適切でない場合に,経済政策の負担としての実質債務残高がどのような影響を受けるかを分析した。その結果,ハイパーインフレを除くと,高いインフレ率によって実質債務が必ずしも軽減されないことが確認できた。また,シミュレーション分析も行っているところである。一方で,デフレはその程度が大きくなるほど実質債務が大きくなる。物価変化率がゼロを境にして非対称性を持つことも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災に対する復興予算が計上され,日本の政府債務はさらに増大することになった。これは契機循環に対する経済対策とは正確が異なるため,通常の政策効果や負担増大とは区別して考える必要がある。また,EUではギリシャをはじめとする国がデフォルトの危機に直面した。EUでは金融政策が同一のため本研究においても注意が必要である。これらの状況把握と分析方法の模索により研究がやや遅れる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
現在,シミュレーション分析の再計算を行っているところで,近日中にまとまる。今後は,日本の政府債務分析を参考に,世界金融危機後の各国政府財政状況をまとめる。
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