平成24年度では当初の予想を超えて,ギリシャ,スペインなどのEU債務危機が深刻化し,日本の国債金利を引き下げる状況が生じた。また,それとともに特に夏期に円高が進行した。そのため,日本の政府債務残高はさらに積み重なると共にさらに低金利が継続するという状況となった。一方で,政権の交代に伴いインフレ期待を高める金融政策が採用さらえた。本研究では政府債務が物価変化率からどのような影響を受けるかを研究しており,その適用を行った。ただし,年度を超えた変化となったため,本研究とこれらの事象についての関係については研究を進めているところである。 インフレとの関係では本研究ではこれまで,物価変化の政府負担への影響を分析した。そこで,これを応用して大規模な金融緩和が財政ファイナンスとなるのかどうかの分析に応用した。通常はリスクプレミアムはフィッシャー方程式においてごく小さいものとして,近似化の課程で省略される。本研究ではその近似化が適切でない場合に,経済政策の負担としての実質債務残高がどのような影響を受けるかを示した。その結果,ハイパーインフレを除くと,高いインフレ率によって実質債務が必ずしも軽減されないことが確認できた。また,本年度はシミュレーション分析を行い,デフレはその程度が大きくなるほど実質債務が大きくなることが示され,物価変化率がゼロを境にして非対称性を持つことも示された。 国債の金利にかかるリスクプレミアムは債務残高にかかるが,日本では債務残高の増大にもかかわらず国債金利は低い。これは現状では上記から外的な要因も含まれる。しかしながら,本研究では,政府が借入れ制約に直面するまではリスクプレミアムが小さく,制約に直面する時点で非線形的に増大することを示しており,現状の低金利が必ずしも債務破綻のリスクが小さいことを意味しないことを示した。
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