第一に、2004年に発生したスマトラ島沖地震による津波の被災地域に関する研究を実施した。これは、被災者の被災後の復興プロセスや援助の効率性を実証的に分析したものであり、2006年にインド南部で収集していた家計データを用いて東京大学大学院経済学研究科の澤田康幸准教授、カリフォルニア大学バークレー校のサラス・サンガ氏の協力を得て論文を執筆した。論文は平成24年度の「経済研究」(編集:一橋大学経済研究所)に掲載される予定である。 第二に、平成22年8月に、バングラデシュ南西部のサイクロン被災地を対象として1ヶ月間のフィールドワークを実施した。これは被災地における家計・村落への被害レベル、それによる社会的・経済的な影響(食糧確保、村落の人間関係、所得損失への対処行動、治安問題など)、政府やNGOによる援助の効率性などに関するインタビューを行うためであった。 この現地調査から明らかにされた点は、主に以下の三点である。第一に、サイクロンによる被害は、所得、生産的資産(農地、家畜、農業機械など)、家屋、健康面など多様であった。これにより、多くの人々が毎日の食糧を十分に確保できず、食事頻度を減少させていた。特に、高齢者や女性にこの傾向があった。第二に、サイクロンによって海水が井戸水に混ざり、飲料水の確保が困難となったのも深刻な問題であった。第三に、被災後は、一部の地域で人身売買や強盗などの犯罪が増加傾向にあった。 この現地調査から得られた点を踏まえ、12月から1月にかけて家計調査を行い、427家計のデータを収集した。次年度は、このデータを用いて、論文執筆を行う予定である。
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