研究概要 |
2000年代の日本企業の研究開発(R&D)投資における資金調達行動の分析を行った。具体的には、R&D投資における資金制約の有無、負債のR&D投資に与える影響、R&D投資における増資の役割の解明を目的に実証分析を行った。R&D集約産業に属する上場企業をサンプルにR&D投資関数を推計した結果、以下のようなことが明らかとなった。 まず、資金制約への直面しやすさを表すとされる社齢と規模によりサンプルを分割して分析を行った。大規模な企業(連結資産3,000億円以上と定義)では、資金制約は確認されなかったが、主に新興市場上場の社齢が若く比較的小規模な企業(連結資産1,000億円以下と定義)においては、R&D投資に関して資金制約の存在が確認された。しかし、それら新興企業において増資によるR&D投資への資金調達は見られなかった,つまり、株式市場がR&D投資への資金供給源として機能していない可能性が示唆された。 負債とR&D投資の関係に関しては、債務返済能力を表すインタレストカバレッジレシオによりサンプルを分割して分析を行った。その結果、負債返済に窮した企業は、R&D投資において資金制約に直面しており、R&D投資が過小になっていることか示された。 また、株式市場がR&D投資への資金供給源として機能していない可能性が示唆されたが、それに関連して、株式市場からの退出行動の一つである非公開化型MBOについての実証研究を行った。特に、買収プレミアムに着目しながら、非公開化型MBOの動機を探った。その結果、株式市場での過小評価が動機の一つと示唆された。ただし、そのような過小評価は利益圧縮型の会計操作や経営者による低めに抑えられた業績予想を通じて意図的に作り出された可能性が確認された。
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