研究課題/領域番号 |
22730242
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
中村 由依 福岡大学, 経済学部, 准教授 (70465714)
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キーワード | 貧困削減 / 現金支給 / セルフセレクション / 最適課税制度 / 労働のインセンティブ / 情報の非対称性 / 有給休暇 / 余剰分析 |
研究概要 |
先進国や途上国を問わず、政府が国民の貧困層に対して現金支給という形で貧困削減政策を行う際に問題となる点は、政府が国民一人一人の能力を観測できないという情報の非対称性により、支援すべき対象となる国民を的確に選別できないことにある(スクリーニング問題)。これにより、現金支給の貧困削減政策によって、もともと生産性が高く自助努力で貧困から抜け出せる人々が、援助に依存して努力を惜しむインセンティブを誘発する問題が指摘されている。この問題を解決するために、先行研究では、低所得者層に劣等財の供給を行う現物支給政策や、低技術の職に就くことを条件として現金支給するワークフェアシステムが提案され、各国で採用されてきた。 上記の政策は、費用削減的であり対象者を的確に選別する点で一定の効果を挙げてきた一方、低技術しか有しないがために貧困に陥っている対象者が、将来的に政府に援助される状況から抜け出して民間部門で自立することが難しいことが指摘されている。 この新たな問題を解決するために、今年度まとめた論文では、低技能のために貧困状態に陥っている対象者の技能を高めるべく、公的部門で高技術により高生産が望める職や教育を提供することを提案しモデル化している。また、その生産の一部しか対象者に還元しないことで、もともと高技術を有している国民にとっては民間部門で働いた方が効用が高くなる状況を作り出し、スクリーニング問題も回避することが可能となる。 このほか、同論文で提言している低生産性の人々を教育し民間部門で自立させていくメカニズムが、費用削減的であり、経済成長にも大いに貢献することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際学会や国内学会での論文報告は計画的にすすめられており(昨年度は各1回ずつ)、その際に専門家から様々なコメントを頂き論文執筆や改訂作業に役立てることが出来ているため。
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今後の研究の推進方策 |
現在取り組んでいる課題(情報の非対称性のもとでの貧困削減政策の理論分析)は3年計画で進めており、今年度はその3年目にあたる。そのため、プロジェクトの1年目、2年目に収集してきた先進国や途上国で実際に行われている貧困削減政策についてのデータや情報、また学会や研究会での論文報告の際の討論者や参加者からのコメントに基づいて論文改訂に励み、国際雑誌へ投稿および掲載という形で研究を完成させることを目標としている。
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