今年度もスクリーニング問題に焦点をあて理論分析を行い論文を執筆した。 スクリーニング問題とは、政府が貧困削減政策として所得の低い人々に現金を給付する際、政府から個人の所得は観測できるが、個人の生産性は観測できないという情報の非対称性が存在するため、給付の対象者を特定できない問題である。すなわち、生産性の高い個人が政府からの現金給付をもらうことを目的に労働を怠り所得を下げたとしても、政府は彼らを給付対象から外すことはできない。先行研究では、解決策としてワークフェアや現物給付が挙げられているが、この二つの政策の欠点も指摘されている。今年度の報告者の研究成果は、それぞれの欠点を克服する制度設計を行ったことである。 まず、ワークフェアとは、定められた時間、公的部門での労働を課す対価として現金を支給する政策であるため、個人の労働時間を最適化しておらず社会厚生も最大化できていない。また、現物給付は、政府が個人の生産性ならびに個人の所得も観測できないという二重の情報の非対称性が存在する場合においては、スクリーニング問題を解決できない。 報告者が設計した制度では、政府が国内全域に一様に現金給付を実施するのではなく、貧困削減のための現金給付と、高生産性の国民の所得を向上させるためのインフラ整備政策のどちらかを各地域に選択させることで、個人の所得ないし生産性を把握することができる。そして、スクリーニング問題を解決しつつ、高生産性の国民から低生産性の国民に所得再分配を行うことで、後者を貧困から脱却させるものである。尚、上記の制度に関して執筆した論文”Cash Transfers for Poverty Alleviation under Double Asymmetric Information Regarding Income and Productivity”は現在、国際誌に投稿中である。
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