本研究では、近年、世界各地で広まりつつあるSystem of Rice Intensification(SRI)と呼ばれる新しい稲作技術について、インドネシアを事例に、(1)その技術採用・伝播過程を、行動経済学や開発経済学の見地から実証的に分析するとともに、(2)それが採用農家に与える経済的インパクトを厳密な計量手法を用いて評価し、政策形成の指針を作成することを目指す。 今年度は以前収集した一時点のデータを用い、SRI採用の規定要因とその経済的インパクトを分析した。分析方法としては傾向スコアマッチングと呼ばれる手法を用いた。傾向スコアマッチングでは、採用決定因とインパクトを統一的な枠組みで検証できる利点があるが、例えば農家の危険回避度や学習効果など目に見えない要素がSRI採用に影響を与えている場合、インパクトを歪みなく測定できないという欠点がある。そこで、簡単な経済実験を行い、危険回避度の変数を作成し、また学習効果(情報ネットワーク)についても農業技術アドバイザーの利用可能性を代理変数とし、それらをモデルの中に明示的に取り込んでいる。 その結果、SRI採用を促進する要因として、灌漑用水へのアクセスの容易さ、世帯内労働力の豊富さ、SRIを採用した経験のある農業アドバイザーを近隣の情報ネットワーク内に有している、リスク愛好的などがあることが判明した。また、SRI採用により、単位当たり稲作収量や稲作所得は非採用時と比べて40%以上増加するが、同時に農業労働投入量が増えるため、稲作以外の非農業労働収入を有意に減らす。その結果、家計総所得には有意な差をもたらさないということが判明した。 これらをワーキングペーパーにまとめ、コーネル大学で開催されたワークショップで発表した。
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