本研究では、近年、世界各地で広まりつつあるSystem of Rice Intensification(SRI)と呼ばれる新しい稲作技術について、インドネシアを事例に、(1)その技術採用・伝播過程を、行動経済学や開発経済学の見地から実証的に分析するとともに、(2)それが採用農家に与える経済的インパクトを厳密な計量手法を用いて評価し、政策形成の指針を作成することを目指す。 今年度は、現在手持ちのデータに加え、かつてデータ収集した家計と同一農家900世帯を追跡調査し、データをパネル化した。家計調査業務は、以前の調査を共同実施したローカル・カウンターパート(現地総括者1名と調査補助員4名)に委託した。収集データは現在クリーニング中であり、このパネルデータを用いて今後、既存研究ではあまり焦点の当てられてこなかった農業技術採用行動の時間的な変化を定量的に把握していく予定である。 今年度は家計データ収集以外に、昨年度執筆した論文の改訂に時間を費やした。論文ではSRI採用の規定要因とその経済的インパクトを傾向スコアマッチングと呼ばれる手法を用いて分析している。その結果、SRI採用により、単位当たり稲作収量や稲作所得は非採用時と比べて70%以上増加するが、同時に農業労働投入量が増えるため、稲作以外の非農業労働収入を有意に減らすことが判明した。 これらをコーネル大学で開催されたワークショップやワシントンDCの開発フォーラムで発表した。
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