本研究の目的は、日本のミクロデータを活用し、日本の世帯内における資源配分(支出・余暇時間)が何によって規定されているかを実証研究することにある。 過去、Jacob MincerやGary Beckerから始まるNew Home Economicsにおいては、一人の意思決定者(主稼得者)が、家計行動(消費、貯蓄など)の決定を司っていると仮定した(Unitary Model)。しかし近年、複雑化する家族行動、特に世帯内における意思決定問題を考察することは困難となり、各世帯員が各々の選好を保有することを想定した、Collective Model(Chiappori 1988; 1992)を想定した実証研究が増えている。本研究では、この手法を活かし、女性が所得源泉を持つようになった世帯で、わが国の有配偶世帯における資源(消費・時間)配分の構造に関する分析を行うことを目的とする。 研究では、調査データ(『消費生活に関するパネル調査』*1993年~2010年毎年10月実査、公益財団法人家計経済研究所実施)を用いて、2010年に実施された施策である、「子ども手当」が政策ターゲットである子どもに適性に配分されているか、世帯内における夫妻間の力関係によって影響されていないか検証を行った。 先行研究(Lundberg and et a1. 1997、Bertrand and et a1. 2003)では、男性がバーゲニング・パワーを持っている方が、子どもに対する資源配分が小さくなるとされていたが、分析の結果、子ども手当の振込口座先、家計管理タイプ、夫妻間の所得割合別に、給付額の配分状況をみたところ、明示的な違いが確認できなかった。先行研究にあった、1970年代のイギリス、1990年代の南アフリカの男性と比べ、現代日本の男性は、バーゲニング・パワーを持ち得ても(女性と同程度)子どもに配分していることが確認された。この点については、女性の配偶者選択の内生性など(予め子煩悩な男性と結婚する)の影響が考えられる。
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