近年、わが国では税と社会保障の一体的な改革が進められようとしており、その議論の中で基礎年金の全額消費税方式が本格的に検討されつつある。しかし、わが国の税と社会保険料は課税ベースを共有するなど互いに密接に関係しているにもかかわらず、これまでは政府内で行われた試算も含めて年金制度の枠内にとどまるものがほとんどであった。そこで本研究では、基礎年金のあり方に関する議論に資するべく、税方式移行時に生じる課題について財政と社会保障の一体的構造に着目して分析し、対応策を検討することを目的としている。 研究初年度にあたる平成22年度は、(1)年金改革、税制改革の動向に関するサーベイ、(2)多部門多世代重複モデルについての過去の研究成果を活用した応用一般均衡分析に主に取り組んだ。(1)のサーベイに関しては、現在政府内で進められている税と社会保障の一体改革の議論をフォローするとともに、財源選択に関する文献の収集および内容の整理を行なった。公的年金の財源選択の議論は、歴史をたどれば社会保障制度の草創期にまでさかのぼる。最近の議論では、こうした歴史的な経緯を必ずしも十分に踏まえたものとなっていない。そこで、基礎年金税方式化の研究として初年度に行うサーベイでは、税方式が採用されてこなかった理由をあらためて確認しようと、財源選択についてどのような議論がこれまで展開されてきたのかについて、歴史的なものを含めて文献を収集・整理した。 また、(2)の応用一般均衡分析は、最終年度のより拡張したモデルの分析に向けて段階的に進めるうえで、その最初の段階の分析として行ったものである。モデルはこれまでの研究成果で得た多部門モデルを活用した。分析結果は学会にて報告を行った。これまでの税方式化の応用一般均衡分析と違って近視眼的な家計を想定することで、やや異なるインプリケーションを得られた意義は大きく、次年度以降の分析につながるものと考える。
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