平成22年度では、わが国のデータを用いて、自社株買いによるペイアウトが実施された前後における収益性指標(ROA)の変化に着目することで、シグナリング仮説、あるいは、エイジェンシー仮説が満たす要件についての検証を行った。得られた実証結果を整理すると、自社株買いによるペイアウトを実施する企業は、高い収益を実現している企業であれば、ペイアウトを実施する直前期において、負の利益マネジメントを行い、また、低い収益を実現している企業であれば、正の利益マネジメントを行っている。きらに、自社株買いによるペイアウトの前後における利益マネジメントを制御した収益性指標(修正済みROA)の変化について検証を行ったところ、自社株買いによるペイアウトの実施後において収益性が上昇する実証結果は、一部において得られているに過ぎず、むしろ、大半において、収益性が低下していることを示している。実施後における収益性の低下は、自社株買いが、将来の楽観的な収益性を表わすシグナルというよりも、企業のライフサイクルの段階において、その企業が成熟段階にあることを表わすシグナルであることを示唆している。
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