研究概要 |
本年度は,自社株買いに関する富の移転の研究の領域でもあるが,自社株買いと表裏の関係である企業のR&D投資政策と株式の流動性と金融機関との取引関係に関する分析も同時に行った。こちらの研究に関しては,それぞれ1つの研究成果としてまとまり,前者は,2012年6月に日本経済学会にて研究報告を行い,後者は,2012年9月に地域金融カンファレンスで研究報告を行った。以下では,それぞれの研究についての概略を紹介する。 前者の研究では,企業のR&D投資の硬直性に注目し,それが多角化企業とそうでない企業でどのような差が見られるかについての実証的な検証を行った。そして,多角化を行っていない企業ほど,企業のR&D投資の硬直性が観察された。さらに,同様の分析を,規模,負債比率,ペイアウトの視点から分析したところ,負債比率の高い,そして自社株買いや配当などのペイアウトに積極的でない企業に企業のR&D投資の硬直性がないことが観察された。この2つの結果は,多角化している企業ほど,財務リスクが高く,ペイアウトに慎重な企業であり,その結果,企業のR&D投資が変動的になることを示唆している。 後者の研究では,企業の株式市場の流動性とその企業と取引関係のある金融機関とのリレーションシップの関係についての実証研究を行った。実証結果によると,企業と取引関係のある金融機関とのリレーションシップが密接であるほど,その企業の株式市場の流動性が高まる。これは,金融機関とのリレーションシップが,市場に存在する情報の非対称性問題の緩和に繋がっていることを示唆している。
|