研究概要 |
「貯蓄から投資へ」というスローガンに伴って,家計の金融資産を預貯金等の安全資産から株式等の危険資産ヘシフトさせようとする租税政策が家計の金融資産選択に与える影響についての分析を行った。具体的には,2003年より行われている上場株式等の配当と譲渡益に対する10%の軽減税率(本則税率は20%)が家計の預貯金・債券・株式・信託の選択に与える影響を見るために,以下の3つの分析を行っている。 1.1978年~2007年の利子所得,配当所得,譲渡所得が各年負担する税負担率を表す実効税率を推計 2.1.で推計した実効税率から各金融資産の税引き後実質収益率を計算し,それを説明変数,家計が保有する金融資産のシェアを被説明変数とする家計の資産選択方程式を推定 3.2.で推定した方程式における税引き後実質収益率の係数を用いて,各金融資産の収益率弾力性を計算し,上述の10%軽減税率の廃止(20%本則税率の実現)が家計の保有する各資産のシェアに与える影響を2007年のデータに基づいて推計 以上の分析から,次のような結果が得られている。まず,実効税率上では,2003年から軽減税率を導入したために,配当所得に対する税率が大きく低下し,2007年時点で,利子所得の税率が18.5%程度であるのに対して,配当所得は10%前後(譲渡所得は10%以下)となっている。また,推定した方程式では,配当所得と譲渡所得に対する税率の引き下げは株式シェアを引き上げることが示されており,10%軽減税率は危険資産へのシフトを促す効果をもつということがわかった。しかし,上記3.において行ったシミュレーションの結果,軽減税率が株式シェアに与える影響は高々0.5%ポイントの上昇程度であり,2007年時点での預貯金の平均シェアが約80%,株式の平均シェアが約10%であることを踏まえると,その大きさは非常に小さいということが示された。
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