本研究の目的は,企業間取引に関して流動性需要が存在する場合を想定し,貨幣供給による財源調達(貨幣調達)を代表とした各種の課税政策が社会経済およびその厚生に与える影響を分析することにある.昨年度までの分析において,基本モデルの構築とその下での均衡経路の性質などを分析した.最終年度となる平成24年度においては,以下の3点について新たな理解が得られた. 1).生産関数の一般化を通じ,複数均衡解の存在や均衡経路の性質について,以下の理解が得られた.まず,均斉成長経路において,公共支出が資本に対して一定であるときには,貨幣調達によって複数均衡解が得られ,そのうちの1つとして高インフレとなる非鞍点安定均衡が生じる.一方,公共支出が生産に対して一定であるときには,複数均衡解は得られないことがわかった. 2). 均斉成長経路において生産に対し一定の公共支出の財源として,所得税調達と貨幣調達を用いる場合について分析を行った.成長率を最大にするためには,公共支出の財源はすべて所得税で調達すべきであり,さらに厚生を最大化するためには,それより高い所得税率を課すことが望ましいことがわかった. 3).生産要素の1つである資本に対し一定の資本課税が課せられる状況を想定し,その歪みの下で,厚生を最大とする所得税率と貨幣拡張率の組み合わせについて数値分析を行った.1) の分析から示唆されるように,複数均衡解が得られるが,鞍点安定となる均衡のみに焦点を当て,Cobb-Douglas型生産関数を考慮し,数値シミュレーションを行う.結果,税率0の近傍では資本課税率が高くなるほど,その下で効用水準を最大化する貨幣拡張率は増加し,所得税率は減少することがわかった.
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