研究目的 欧米諸国の産業構造を歴史的に比較してみるとヨーロッパ、とくに、ドイツ、フランスなどのヨーロッパの大陸諸国は工芸品や贅沢品などの付加価値の高い製品の生産に強みを持っており、そのような製品はアメリカが大量生産方式を確立した1920年代以降も世界市場において国際競争力を持ってきた。この場合、製造の舞台の一つとなったのは地場産業の都市であった。本研究の目的は20世紀、とくに1920年代以降において地場産業都市がどのようにして国際競争力を維持してきたか、という点をドイツ・ゾーリンゲン市の金属加工業を事例に明らかにすることである。 研究方法1920年代にゾーリンゲンという地場産業都市がどのように国際競争力を維持したのか、という点を、企業家の社会問題解決への参加の度合、という観点から分析した。 研究成果 本年度、明らかにしたことは企業家の間に緩やかな団結がみられた点である。20世紀において、ドイツの諸都市は住宅不足に悩まされていたが、その際の住宅問題解決のありかたは企業家の支援の度合に左右されていた。手工業的・熟練的な技能への依存が大きく、企業規模が小さい都市であるゾーリンゲン市では、社宅建設-これは企業規模が大きい都市でみられた-ではなく、非営利住宅供給組織の住宅供給が活発であった。そしてその活発な住宅供給は、複数の比較的大きい企業家の出資によって支えられていた。同市ではそれら企業家の社会問題解決へむけてのゆるやかな結合がみられたのである。このような企業家間のゆるやかな結合、という点はゾーリンゲンがどのように国際競争力を維持したのか、ということを考える上で重要な指標になる。つまり、ゾーリンゲンの金属加工業経営者は製品輸出においても共同で活動していたことが推測されるのである。その活動の1つに「ゾーリンゲン・ブランド」の確立が挙げられる。この点については次年度に詳しく分析したい。
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