本研究は、第二次世界大戦期から戦後復興期のイギリスにおける「民主的変革」の構想とその手法、およびその限界を地方都市計画の事例を通してイギリス戦後復興の歴史的特質を明らかにするものである。本年度は、イングランド北東部に位置するミドルズバラ市を研究対象とし、夏季に英国調査へ赴いた。ミドルズバラ市公文書館、地方図書館にて大戦期の都市計画関連の一次資料・地方新聞・二次文献を収集した。大戦期に設立された政府調査機関の下、社会学者によって調査作成された1944年の『ミドルズバラ市の戦時社会調査』から、男性労働者・女性労働者・主婦層の近隣住区における友人・隣人関係のありかたと居住環境の性格(私有住宅地・公営住宅地・過密地域)との関連性を考察した結果、階級差・年齢差・性別・居住地区の性格の違いにより近隣関係や相互扶助のあり方に多様な形態がみられたことを明らかにした。住民同士の階級意識は決して強固なものではなく実態のない漠然としたものであった。この階級差意識によって住民の半数近くが近隣関係に満足しておらず、郊外地へ移住したい気持ちのあることが労働者階級住区に顕著に観察された。相互扶助の内容においても富裕層と異なり過密地域住民同士は金銭賃借などが含まれることも判明し、いわゆる「ロマンティック」な労働者階級世界とは異なる現実的かつ殺伐とした生活実態の裏付けを一次資料から明らかにできた。この研究成果として、査読付き論文を1本公刊した。また、6月に東京で「現代ヨーロッパ都市と住宅研究会」セミナー、9月に英国ウェストミンスター大学にて「戦後再建とその遺産」をテーマとしたコンファレンスで口頭発表を行い、英国人歴史研究者らから有益なアドヴァイスを頂戴することができた。
|