本研究は、第2次大戦期イギリス戦後復興の特質を都市計画の領域から、その「民主的」変革の実態について個別都市(製鉄工業都市ミドルズバラ市)を事例に一次史料に即して実証的に明らかにするものである。 成果と意義について、1.最終年度として、1944年に実施された『戦時社会調査』の調査のため、LSE図書館、サセックス大学マス・オブザベーション文書館、国立公文書館で関連一次史料を収集・分析し、戦時社会調査機関の設立経緯と調査法を実証的に明らかにできた。結果、戦時期の都市社会学者は、より発達していたアメリカ社会学を意識し精度の高いサンプリング法の利用によって、市民の要望や都市問題の実態を正確に把握し、戦後の都市計画案にこれらを反映しうる条件を整えた点を明らかにした。2.ミドルズバラ市住民意識調査では、階級・年齢・性別・居住地区の違いにもとづく要望の多様性が見出されたことから、製鉄工業都市の労働者コミュニティが単一な集合体的性質を帯びていたというよりも、個人主義的行動様式の傾向の強い性質を発見した。3.都市計画家らは都市農村計画省、地方政治家、市民への啓蒙活動に熱心であり、戦後の新しい都市社会への関心を高める努力をしていた。4.上記の諸点は、現代イギリス史研究における1940年代の市民意識や労働者の娯楽活動に関する近年の新見解を補完すると同時に、戦後再建史を従来の制度史や思想史の観点からではなく、変革方法(民主的変革のありかた)という観点から「戦後再建像」を新しい文脈で理解することに通じる。戦後再建期にこうした戦時社会調査が利用され、市民の要望に沿った形で都市計画が作成されたプロセスは、イギリス戦後再建の民主的改革の一端を示しうる。 今年度の研究成果に「第二次世界大戦期イングランド北東部ミドルズバラ市の都市・住宅再建問題に関する住民意識調査の実態」『中部大学人文学部研究論集』(第27号、2012年3月)を刊行した。
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