本研究は、戦後復興期イギリスの都市計画の「民主的」計画構想およびその実現化への制約条件を検出し、1940年代という「民主的」変革が試みられたイギリス戦後復興の歴史的特質を探るものである。2度の渡英調査を行い、中央政府・地方レベルでの関連一次史料を収集した。具体的には、イングランド北東部の製鉄工業都市ミドルズバラ市を事例に、計画者らがどの程度、市民の要望を包摂していったのかを検証した。結果、戦時社会調査機関を中心に社会学者と都市計画家の協働と科学的アプローチに基づく社会調査の実践により、住民の要望や都市問題が詳細に把握され、戦後ミドルズバラ市再建計画案に反映されていたことを明らかにできた。このことは従来、社会のなかで無視されてきた労働者階級や主婦層の声を掬い取り、これまでの少数の計画者による秘密裡にすすめられる計画立案過程とは異なり、より開かれたものへと計画思想のパラダイム・チェンジがみられた。このことは戦後の「より公平な社会」の建設に活かすことが強く意識された1940年代のイギリス戦後復興期の「民主的」変革の一端を示すものといえよう。
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