最終年度となる平成25年度は,これまでの研究計画を踏まえ,補充的な国内外の資料調査を実施し,研究の総括のための資料・文献の収集を実施した。また本年度は各関連学会の全国大会に積極的に参加し,研究成果の共有と相対化をめざした。 本研究の目的は,日本=アメリカ=アジアの多様な工業化について,地方機械工業の視点から明らかにすることにあり,本研究により次の3点が明らかになった。第一は日本機械工業の柔軟性である。1930年代に三井物産や三菱商事などの商社を媒介として,原動機や工作機械などを中心に日本の機械工業はアジア市場に進出し,高級機械からなる欧米機械製品の市場を侵食するまでには至らなかったものの,現地の中小工場などを中心にある程度の市場を確保した。その際に重要となるのが,商社と連携して構築した修理やメインテナンスなどのアフターサービス事業であった。第二はオーストラリア市場の重要性である。従来の中国および東南アジアだけでなく,1930年代中盤以降,日本の機械工業はオーストラリア市場への展開を開始する。特に今回,オーストラリア国立公文書館資料により,日産自動車のオーストラリア進出を実証的に明らかにすることができた点は大きな成果であろう。第三はアジア間貿易の多様性である。本研究を進める過程で,蘭領インドを基軸として,欧州―日本―中国―豪州―米国が,産業・貿易の各側面で相互に強く関係していることが,新たな資料から明らかになった。その結果,アジア間貿易が環太平洋貿易へと変化していく1930年代に日本機械工業がどのように変化したのかが次なる課題として浮かび上がった。 平成25年度は,最終年度ということを意識して,関連する研究会との連携を強化した点も重要な成果であり,今後の海外資料の調査・閲覧に際して,重要な人的関係を築くことができた。
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