研究概要 |
本研究の目的は,クリエイティブ産業におけるプロジェクト組織の価値創出メカニズムを解明することである。具体的には,(1)クリエイティブ産業の特性,(2)プロジェクト組織の実態を解明した上で,(3)クリエイティブ産業におけるプロジェクト組織の価値創出メカニズムについて,質的・量的データの検討を通じてアプローチする。 研究期間の2年目である平成23年度の成果は,「権力関係の解除と再接続のための言説分析:フリーランス言説における騎士・従僕・英雄」である。本研究では,フリーランス言説の分析を通じて,制度を担う人々の実践を捉えることが試みられた。その結果,フリーランスに関するテクストの生産・伝播を通じて「(自由や自律を強調するテクストの生産・伝播を通じて形成された)騎士」,「(服従や隷属を強調するテクストの生産・伝播を通じて形成された)従僕」,「(自由や自律に加え変革や創造を強調するテクストの生産・伝播を通じて形成された)英雄」というシンボルが形成されていること,それぞれのシンボルを介してフリーランスや企業,研究者,行政等が構築する権力関係の動態等が明らかにされた。これらを踏まえ,制度の担う人々の実践はシンボルを参照しながら駆使される言語的戦略として具体的に捉えることが可能であることが指摘された。またこのような指摘は,通説的には特殊な動機と能力を有し制度から超越した主体として位置付けられる「制度的企業家」という制度派組織論における重要な概念の再考に結びつくことが示された。 以上の実績は,組織論や組織行動論に関する先端的な議論への理論的示唆と,価値創出を担うクリエイティブ人材の輩出・動員や産業振興等に関する実践的示唆を有すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画上では平成23年度から量的調査の計画に加え実施に取り組む予定であったが,計画段階にとどまっている。その主な理由は,以下の二点である。 第一に,研究全体を支える理論的・方法論的基盤の整備(具体的には,たとえば制度派組織論やコンテンツ産業論,地域/都市社会・政策論,言説分析等に関する議論のレビューと展望)に想定より時間を要したことである。 第二に,できるだけ理論的・実践的示唆に富む量的調査を実施するために,調査デザイン(対象の選定や項目の設計等)を慎重に進めていることである。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題を推進するための方策として以下の二点が挙げられる。 第一に,改めて論文や学会報告など本課題に関する成果の具体的イメージを検討し,それにできるだけ資する量的データを明確化することで調査の計画・実施を効率化することである。 第二に,量的調査の実施や研究成果の公表に向けて,これまで以上に必要に応じて学内外の専門家とのコミュニケーションを密にとることである(幸い,既存のネットワークだけでも理諭面・実践面で豊富な助言や教示等を受けることが期待できる)。
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