平成22年度は、(1)海外研究開発拠点の研究者の社内外での移動と共同開発、そして知識移転とスピルオーバーに関するデータベースの作成、(2)製薬企業と公的研究機関の生命科学分野の研究者に対するヒアリング調査、(3)研究開発活動の国際化と知識移転の促進要因に関する先行研究のサーベイをそれぞれ進めてきた。まず、多国籍企業の海外研究開発拠点によって米国特許商標庁(USPTO)に出願された実用特許と特許間引用、そして発明者の氏名と住所の情報から、発明者の人的交流と知識移転のネットワークを可視化するための定量的なデータベースの作成を進めた。この作業は大容量のデータの処理を必要としているため、平成23年度も継続している。また、日本の関東圏に支社を持つ製薬企業と公的研究機関の生命科学分野において研究組織間での移動を経験した研究者に対して、日本と米国における研究組織内外での人的交流と知識移転の関係についてヒアリング調査を行った。そこでは本研究の重要な概念の1つである海外研究開発拠点から地理的に近接する現地の研究組織へのスピルオーバーを検討する上で、(1)「地域」や「現地」という表現を用いる際には州や国単位だけではなく、市町村などのより細分化した単位を用意することが重要になること、(2)社内での知識移転に関しても移転の有無だけではなく移転の速さが実務的にはしばしば重要な問題になることに関する示唆を得た。そして企業の海外研究開発拠点の立地選択、海外研究開発拠点による研究開発成果の決定要因、研究開発拠点間での知識移転という、概念的には重複しつつも別個の研究課題として扱われてきた各研究分野の主に1990年から2010年までの先行研究の動向と課題をまとめた。これらのことから得られた知見は早稲田大学大学院商学研究科へ提出した博士学位論文の1部となっている。
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