平成24年度は、昨年度まで継続してきた米国特許の発明者間の人的交流と特許間引用、そして各発明者の地理情報に関するデータベースの整備を進めて、いくつかの実証分析を行った。 発明者の地理情報については行政区分である国、州、大都市統計地域での分類を行い、市町村単位での緯度と経度を特定することで、発明者間の地理的な距離と近接性を計測した。発明者間の地理的近接性と、人的交流にもとづく社会的近接性、そして技術的近接性とそれらの相互作用が知識のスピルオーバーのパターンに対してどのような影響を及ぼすのかを検証した。300万件を超える特許間引用データを用いた分析の結果、地理的、社会的、技術的な近接性はそれぞれ研究組織間での知識のスピルオーバーを促進する効果を持つものの、各近接性の相互作用に着目すると従来の研究とは異なるスピルオーバーのパターンが見出された。このことは、それぞれの近接性を別個に見つめるだけでは、多国籍企業の知識移転や海外研究開発拠点の立地選択、そして知識創造を念頭に置いた地域の経済政策において適切な意思決定を行えない可能性を示唆する。 また、多国籍企業内における発明者間の人的交流に注目し、どのようなパターンの人的ネットワークを有する発明者が企業の研究開発成果に大きく貢献するのかを検証した。多様かつ異質な知識を入手する機会に恵まれる発明者ほど、高い成果を生み出しやすいと考えて分析を行ったところ、社内の発明者の人的ネットワークにおける次数中心性が高く、強い紐帯を多く有するほど、また構造的空隙に位置し、外部組織との共同発明経験を持つ発明者ほど、高い研究開発成果を生み出すという傾向が見られた。同時に、次数中心性や強い紐帯数は過度に高まると、研究開発成果を低下させる効果も持ちうることが見出された。これらの分析結果を踏まえて、論文の作成と学会報告を行った。
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