地球温暖化など環境問題への関心が高まり、太陽電池を用いた太陽光発電に注目が集まっている。歴史的な経緯をいえば、この分野の技術開発に先行的に取り組んできたのは日本である。太陽電池は過去40年以上にわたる技術開発期間を経てきたが、先行的に取り組んできたおかげで、日本の産業技術はこの分野で一貫して世界トップ水準を維持してきた。しかし、ようやく産業が離陸し、本格的な成長が始まった段階で、主導的日本企業の当該市場での競争ポジションが低下している懸念がある。太陽電池の世界市場でずっとシェア上位を占めていた日本企業がこのところシェアを減少させ、代わってドイツや中国やアメリカの企業がシェアを増大させている。 日本企業が実用化で先行しながら、他国の企業、とりわけ東アジアの企業に急速にキャッチアップされるといった現象がDVDプレイヤーや液晶モニター、液晶テレビといったエレクトロニクス機器の分野を中心に多く観察され、その原因や日本企業がとるべき戦略について研究が蓄積されている。日本企業が実用化で先行しながら、しかし自らのイノベーションから十分な収益を獲得できないとすれば、それは重大な問題である。先行研究はこの問題に対して有用な示唆を与えてきたが、それぞれの研究は特定の製品分野を詳細に分析したものであり、産業間の関連性について分析したものではない。ところが太陽光発電の分野は他の産業との技術的関連が強く、また他業種の企業が次々に参入している。本研究は、太陽光発電を対象として、他の製品分野からどのような知識や技術が流入したか、新規参入企業の出自やその技術の由来を調べる。そして、そうした流入が太陽光発電の産業構造や競争構造に与えた影響を明らかにするとともに、このように重層的な競争状況を分析するための枠組みを提起する。 本年度は過去30年以上にわたる日本やヨーロッパにおける太陽電池普及の歴史の概観をまとめるとともに、代表的太陽電池メーカーであるカネカによる太陽電池の電卓への応用事例から、太陽電池と電卓との影響関係を分析した。
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