今年度はこれまでの研究結果を踏まえながら、作成した調査票に基づく実証研究により、従業員の動機付けと環境の不確実性が及ぼす従業員の組織行動の関係についての研究を行った。環境の不確実性については、従業員の所属する部門等の企業の内部環境及び企業の置かれる業界等の外部環境の二つの側面から測定している。従業員の組織行動は、組織コミットメント、組織アイデンティフィケーションと転職意欲等によって構成されている。実証研究の結果からは、従業員の動機付けが、内発的動機付け、外発的動機付け、社会貢献的動機付け、及び世間承認的動機付けの四次元に分類できることが分かった。これらを総合すると、従業員個人の組織行動が動機付けと環境の不確実性の相互作用によって影響されていることが明らかになった。 具体的には、内部環境の不確実が高いほど、個人の内発的動機付けは低下し、その相互作用の結果、企業に対する意識も低下して、従業員の行動が阻害されることが判明した。ただし、外部環境の不確実性が高ければ、内発的動機付けの高い従業員は逆に組織に対する意識が高まり、従業員の組織行動も促進されることとなる。その結果、内部環境と外部環境の不確実の従業員に対する影響は異なっていることが判明した。このことは、不確実回避の動機付け理論によって説明することができる。所属部門の制度変化等内部環境のように個人に緊密に関わりのある環境の変動は、個人にとってマイナスとして受け止められるため、不確実性の高い状況を回避したい欲求から発動する動機づけが働くことになる。しかし、外部環境変動による不確実性は個人に直接的にマイナス的な要素としては受け止められず、逆に組織と一体となって努力することで、外部環境の変化に挑戦しようとする気持ちが高まる。実践的には、不安定な業界におかれることで、逆に企業のマネジメントに生かされる可能性を示唆していると言える。
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