本研究は、どのような組織的・技術的・戦略的要因が、効果的な医療情報システムの導入・活用に結びつくのかを病院とベンダー側の両面から検討することを目的としている。医療サービスは、医師、看護師、検査技師、薬剤師、事務スタッフなど多種の専門職が、患者の治療という1つの目的をもとに協働しあう必要がある。だが、マトリクス組織を採用していることもあり、各種の業務を統合することが困難で医療情報システムはこのような状況を解決するのに大きな役割を果たす。2011~2012年の研究実績に関して触れたい点は以下の3点である。 1点目は、医療情報システムを病院に導入することによって、どのような影響がもたらされるのかを書籍の1章にまとめた。技術的な面では、医療情報システムは階層構造になっており、ベースシステムと部門システムのインターフェースのマネジメントが低コストでシステム導入するにあたって重要であることを明らかにした。また、組織的な面では、病院側でソフトをカスタマイズしたり評価したりする能力が重要であることも確認された。 2点目は、どのようなコスト要因が病院の赤字経営につながるのかをデータ分析を通じて定量的に明らかにし、日本医療・病院管理学会誌に投稿した。論文は医療情報システムについて直接的に検討しているわけではないが、材料費・診療材料費を効率化するにあたって、医療情報システムが大きな役割を果たしていることが想定され、追加で聞き取り調査を行っているところである。 3点目は、さまざまな情報システム開発を手掛けるベンダーの開発チームにおいて、製品のモジュラー性に応じてどのようなマネジメント要因が重要になるのかを定量的に分析し、日本経営学会に投稿した。本論文はベンダー側からみた分析で、扱われる情報システムは医療分野に限定されないが、本研究の特色である病院とベンダーの両面からの検討に役立ったと考えている。
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