本研究の目的は、日本で独特な形で発達した文化製品(cultural product)であるマンガが、アメリカという異なる国で人気を博した理由を実証的に明らかにすることにある。具体的には、(1)1980年代のアメリカにおけるマンガ出版の歴史調査、(2)作品データベースによる出版社の行動分析、(3)日本の中央官庁による輸出振興・文化外交の影響に関する調査、(4)英訳マンガの内容分析、(5)日本の出版社のライセンス提供に関する調査の5つ課題に取り組むことを計画した。平成22年度は、特に(1)、(2)、(3)を中心に調査分析および成果発表を行った。 (1)については、1980年代の北米マンガ市場黎明期について詳しい主要人物たちへのインタビューをサンフランシスコおよび東京にて行い、アメリカ人読者に受け入れられるためのマンガのローカライゼーションについての詳細な実態を明らかにした。(2)については、『Manga : The Complete Guide』という北米で出版された日本産マンガを網羅したガイドブックから作成したデータベースを用いて、現地出版社がどのような作品を出版したのかを分析し、市場の成長に応じて新規参入が相次ぎ、作品の多様性が増大した事実などが実証的に確認した。(3)については、「クール・ジャパン」関連の政策を担当している中央官庁などの人々へのインタビューを行い、かつては政策的には注目されなかった地位の低い大衆文化を活用した政策を各省庁が促進するに至った経緯を社会学的に分析した。 こうした成果は、国内外の学会にて発表された。また『一橋ビジネスレビュー』58巻3号において「検証特集:検証・Cool Japan:北米における日本のポップカルチャー」を共同編集し、関連する6本の特集論文と2本のケース、北米最大のマンガ出版社ビズメディア創業者へのインタビューを掲載した。
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