本研究の目的は、日本で独特な形で発達した文化製品(cultural product)であるマンガが、アメリカという異なる文化圏で人気を博した理由を実証的に明らかにすることにある。基本的な問いは、文化ギャップを超えて文化製品が定着するメカニズムはどのようなものか、というものである。平成22~23年度は、(1) 1980年代のアメリカにおけるマンガ出版の歴史調査、(2) 作品データベースによる出版社の行動分析、(3)日本の中央官庁による輸出振興・文化外交の影響に関する調査に取り組んできた。 平成24年度においては、(a)これまでの調査成果を発表することと(b)フランス市場の調査の2つに取り組んだ。 (a)成果発表については、まず日本商業学会において5月に発表を行った。この発表に基づいた論文は、同学会誌『流通研究』に掲載された。本論文では、大衆文化製品に与えられたスティグマがゆえに生まれた文化障壁を克服するためのマーケティング努力を、ゴフマンのスティグマ管理という概念を通じて解釈した。 (b)フランス市場の調査については、7月にパリで開催されたジャパン・エキスポ(日本のポップカルチャーに関するヨーロッパ最大のコンベンション)を訪問して、フランスにおける日本産マンガ出版社に対するインタビューを実施した。この成果は、平成25年6月に日本商業学会で、また同8月にEuropean Sociological Associationにて発表する予定である。これらの発表では、フランス市場と北米市場金額で同規模であるが、読者層の広がりや性暴力表現への対応が大きく異なることを明らかにする。
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