研究概要 |
本研究は,19世紀末葉におけるアメリカ鉄道会社の複会計システムを多面的に分析し,その歴史的展開過程を実証的に検討するものである。複会計システムは,19世紀のイギリス運河・鉄道会社で生成・発展した特異な財務報告様式である。イギリスの鉄道技術は,当時途上国であったアメリカに導入されるが,複会計システムに関しては,アメリカ鉄道に伝播しなかったというのが会計史研究の通説であった。しかしながら,19世紀末葉におけるアメリカ鉄道会社の年次報告書を詳細に検討した結果,複数の鉄道会社が複会計システム採用していた事実を発見するに至った。 今年度は,アメリカ型複会計システムの特質を明確にしていくうえで重要となる,イギリス複会計システムの分析を行った。1868年鉄道規制法により要求された複会計式財務諸表の要式,および制度化以前に複会計システムを実践していたロンドン・アンド・ノースウエスタン鉄道会社の財務諸表等を分析した。 続いて,アメリカ複会計システムに言及している国内外の文献(著書・論文・雑誌等)の検討を行った。その結果,アメリカ複会計に関する記述はほとんどみられず,未解明の状態にあることが再認識された。文献研究は,次年度以降も引き続き行っていく。 以上の成果を踏まえ,日本会計研究学会全国大会での研究発表を行った。アメリカの巨大鉄道会社のであったアチソン・トペカ・アンド・サンタ・フェ鉄道会社を俎上にのせ,同鉄道における複会計システムの物質を検討した。当初はイギリス複会計システムと異なる形式であったが,複会計の要件を具備しているものであったことを発表した。今後は,論文として纏めていくとともに,他鉄道会社の分析を行っていく。
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