本研究の目的とは、真に製品やサービスの原価を改善させるには、企業全体の経営システムのどのようなコンテクストの中で原価改善システムを機能させればよいかを明らかにすることである。そして、その研究遂行のため、現実における原価改善システムおよび経営システムを日本企業へのヒアリング調査を通じて考察しようと試みた。当初は既存の研究に倣って製造業を念頭に置いていたが、その理論の拡張可能性を考える上でも、製造業を中心に探究された先行研究の知見がサービス業をはじめとする他の産業にも当てはまるのか確認しておく必要に迫られた。研究の質をより高いものにしようとする意識もあり、平成22年6月~平成23年3月まで10回超、イトーヨーカ堂において実務を行なった当事者にヒアリング調査を行なった。そして、結論としては、既存の研究の知見が典型的なサービス産業である小売業においても適用であるとの知見を得た。イトーヨーカ堂では創業者の経営理念が強く経営システムに影響を及ぼしており、その結果、「商品別部門別損益計算システム」という管理会計システムが構築されていた。そして、そのシステムがあればこそ、日々の業務における機会ロスや値下げロス(死に筋商品)発生によるコスト増を抑えられる「単品管理システム」、原価改善を促すシステムが活きるのだと発見することができた。この研究成果は平成22年12月3日の日本原価計算研究学会・関東部会で報告している。このイトーヨーカ堂の研究を通じ、単品管理システム、商品別部門別損益計算システム、経営理念・経営戦略との関係を明らかにすることができた。だが、それは交付申請段階における目的をある一定程度果たすに過ぎず、まだまだ研究すべき余地が大きい。研究の質と量を改善させるべく、本研究を鋭意継続する予定である。
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