平成24年においては、以下の研究成果を得た。 1.米国政府会計制度における複式簿記の意義の検討 米国政府会計制度における複式簿記と企業会計で用いられる複式簿記との相違点に注目し、両者が形式的には同様の「複式記入」を行い、総勘定元帳に記録された諸勘定の記録から財務諸表を誘導的に作成するという基本的な仕組みを利用していることを確認した。その上で、政府会計では1)損益計算を行わないものの、2)財政収入に対する財政支出と費用(コスト)という2つのフローを同時に記録・計算しようとしていることの難しさを明らかにした。さらに政府会計に特有の予算制度を複式記入に取り込んで、企業会計とは異なる計算構造を作り出していることが明らかとなった。これにより、損益計算を行わない非営利組織全般も含めた財産管理のための簿記の普遍性を示すとともに、わが国の教育界においてここ数年話題に上る「簿記離れ」に対しても、一定のニーズを満たしうるものとして公会計が存在することを指摘した。 2.米国政府会計制度における「発生主義」の検討 米国政府会計基準における概念フレームワークのうち、財務諸表の構成要素に関する「認識と測定」について、審議会による『予備的見解』(Preliminary Views)等を引き続き分析した。その際、現在、米国政府会計制度において取り入れられている「修正発生主義(modified accrual basis)」がどのような意味を持つのか、企業会計のような「完全発生主義」とどう異なるのかについて検討した。また、政府が行政活動に利用する資本的資産について、貸借対照表価額の決定や減価償却実施の有無といった諸論点の議論に関して、たとえば減価償却不要論に立っていると思われるFrancis Oakeyの学説を対象として検討を行った。
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