研究概要 |
本研究の狙いは、日本企業の退職給付会計情報の特徴や属性やそれに対する評価について、他国基準・企業の属性と比較しながら、明らかにすることにある。このため、本研究では以下の3点に取り組んだ。 第1は、他国と比較する前提として日本企業の退職給付会計情報の属性を明らかにするため、Francis,Lafond,Olsson,and Schipper(2004)をベースに、会計基準の差異が退職給付会計情報にどのような属性の差異をもたらしているのかについて検討した。検討の結果、国際会計基準審議会で提唱されていたBS/PLともに即時認識する属性と比べて、BS/PLともに遅延認識する日本基準のほうが持続性、予測可能性、平準化の程度、価値関連性ともに高く、適時性のみ国際会計基準審議会で提唱されているモデルが高いことが確認された。 第2に、退職給付会計基準の国際的統合化・収斂化により、日本企業がどのような経済的影響を受けるかについてアンケート調査をベースに調査をした。コストとベネフィットを比べた場合、日本企業の経理業務担当責任者はコストと感じる割合が58.9%で、ベネフィットを感じている1.5%を大幅に上回っていることが確認されている。 第3に、Compustat Global VantageおよびCapital IQというデータベースを活用し、退職給付会計情報の国際比較を実施した。日本は他国と比べてPBOを開示している企業、すなわち退職拠出制度ではなく退職給付制度を採用している企業の割合が高く、退職給付債務のプレゼンスが大きいことは確認されている。さらに退職給付会計制度について国際会計基準と同等の基準を採用した場合、損益や純資産にネガティブな影響を与えることを確認している。 本研究を通じて、退職給付会計情報の日本の特徴および日本基準と他国基準の差異が評価に与える影響についての一定の事実は確認することができたと考えている。
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