研究概要 |
当該年度の研究では,従来の学説通り,原価企画はトヨタで産まれ伝播していったのか,1950年代にトヨタ自動車以外にも原価企画と同様の試みはなかったのか,またもしあったとすればそれらの実践の間に互いにどのような関係があったのかなどについて,さらに調査を試みた。我が国企業における原価企画の生成と伝播について,1950年代の実務雑誌や実務書から定性的データや二次資料を収集した。サンプリングに用いた原価企画の定義は,(1)企画(受注)・設計・試作段階で,(2)目標原価を設定し,(2)見積原価を計算している実名企業の事例とした。調査の結果,社名を特定できたものだけでも,1950年代にはトヨタ自動車以外にも8つの実践事例(7社)が確認された。またこれらの実践が1950年代後半や1960年代初頭にかけて伝播していったと思われる痕跡として6事例を確認した。実践事例の掲載のあった雑誌は,『マネジメント』『インダストリアル・エンジニアリング』(以上,日本能率協会),『工場管理』(日刊工業新聞社),『品質管理』(日科技連)などであった。以上の分析を通じて,すでに1950年代後半には,家電・自動車・機械などの産業で設計原価管理の技法として,目標原価設定の控除法や積上法,目標原価割付の原価要素別法や機能部品別法など,それぞれの文脈や組織的課題に応じて,当初から多様な実践が形成されていたが,当時の実務雑誌や実務書,および航空機産業出身のコンサルタント指導の研究会や有料講習会などの業種横断的な交流の場を通じて伝播していったことを明らかにした。
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