当該年度は,これまでの年度において収集・分析してきた,原価企画の形成過程に関する資料をまとめ,一定の結論を提示した。すなわち,原価企画の起源をめぐる学説としては,1960年代前半の自動車会社での実務をルーツとする説が通説とされてきたが,1950~1960年代における原価企画の一般的な実施状況に関しては,1953年に25社を対象として実施された原価引下げ方策に関する調査によれば,三菱造船,石川島重工業,三菱電機の3社が,設計重量の軽減や設計改善による材料・工数の節約など,設計段階での方策が効果的であると回答し,また1960年に160社を対象として実施された原価管理の内容に関する調査では,精密・産業機械の2社および電機・光学機械・自動車の1社で,設計段階における原価管理を実施しているとの回答が見られ,原価管理の会議に設計責任者を参加させている企業も4社あるなど,ごく少数かつ限られた業種ではあるが,1950年代にすでに,開発設計段階における原価管理の実務が萌芽していることを確認できた。さらに,1950年代から1960年代にかけての自動車・家電・機械産業における個別企業の実務例を検討した結果,1950年代後半における家電・機械産業での実務が,1960年前後の自動車産業での実務よりも,やや先行して生じており,自動車産業や家電・機械産業でそれぞれに生じていたこれらの実務は,日本能率協会所属のコンサルタントたちが1958年に設立した「設計管理研究会」で合流を果たし広く普及が図られた。さらに研究会のメンバーによる文献で,それらの実務が「管理会計制度」の一環としての「設計原価管理制度」として位置づけられ,初めて管理会計技法として理論化された。その後,実務界での「設計原価管理」が,学界では「原価企画」や「Target Costing」という学名で呼ばれはじめ,今日に至ったとの結論を得た。
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