本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1)近年わが国でも開示されている包括利益情報と企業行動について考察した。データ等の制約から、特に資金調達活動との関係について研究することとなったが、本研究の成果を英文にてまとめ、国際学会にアプライ、アクセプトされた(Title: Linkage between information on comprehensive income and firm's financial behaviour) 。本研究の成果からは、包括利益情報が現在あるいはそれ以降の企業価値を予測する上では、先行研究と同様に予測価値は低いものの、その他包括利益の内訳であるOCI項目は企業の資金調達活動と密接にリンクしている可能性があり、それゆえリスク評価指標としての利用価値があるとの結論に至った。当該研究成果については、データのアップデートおよびさらなるブラッシュアップを行う予定で、今後も研究を継続していく計画である。2)また昨年度IASBより公表された概念フレームワークに関するDP(において、OCI項目の範囲および純利益への振替(リサイクル)の議論が取り上げられていたのを受けて、主に外貨換算調整勘定を例にこの点についての試案をまとめ、国内学術誌に公表した。ただし、本成果は多くあるOCI項目の1つを部分的に扱ったに過ぎず、議論も未完成なため、今後より包括的に取り扱い、理論的研究を深めていく予定である。
|