本研究では,M&A,特に公開買付の際の企業価値評価において,割引キャッシュ・フロー法(DCF法),類似企業比較法(マルチプル法),および市場株価法などの評価方法のうち,どの方法がどのくらい重視されているかを検証することを目的としている。 具体的には,『公開買付届出書』からデータを収集し,それぞれの評価方法による評価額と最終的な買付価格との関係を,複数の価値要素を考慮したYee (2008)のモデルを参考に検証し,複数の価値評価額のいずれに大きなウェイトがおかれて買付価格が決まっているかを推定した。2つ以上のノイズを含んだ価値評価額に基づき,利用可能な情報を活用することで,1つのより優れた価値評価額が得られる。そこで,複数の価値要素を加重平均して価値評価を行っている,Yee (2008)のモデルから,複数の価値評価額のいずれに大きなウェイトがおかれるのか,また企業規模やアドバイザリーの違いによりその影響はどのようなものなのか精査し明らかにすることで,より優れた価値評価額の算定が可能となった。この結果から,M&Aにおける価値評価はもちろん,非上場企業の株式価値評価や,株式買取請求権の行使などにより生じる裁判所における価値評価など,幅広い局面においてベンチマークとして利用できる価値評価方法について方向性が明らかとなる。
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