研究概要 |
本年度の研究は,昨年度の研究内容を成果として具体化することが主たる目的であった.具体的には,日本会計研究学会での報告と,同学会誌である『会計プログレス』への投稿をおこなった.『会計プログレス』については,現在のところ,仮掲載許可を頂戴しているところである. さて,本年度では,前年度の作業を引継いでモデルを完成させ,分析をおこない論文とした.内容としては,現行のストック・オプションの会計基準の根拠の脆弱さについて指摘した.現行では,国際会計基準(IASB(2004),par.10)や米国会計基準(FASB(2004),par.5)では,ストック・オプションについて,提供される労働サービスを直接測定し,それらを瞬時的な資産とみている.それを費消するから,費用が認識されるというのが費用認識の根拠とされている.しかしながら,モデル分析の結果,労働サービスとESOが等価交換されていないことを証明した.それは,付与時点の期待の次元でも,また,権利行使時点における事後でも同様であった.したがって,現行の根拠にしたがうとすれば,ストック・オプションの費用認識によって,無意味な留保利益の資本組入れがおこなわれている可能性がある.これにより,本研究では,費用認識の根拠を労働サービスの提供とみるのに無理があることを指摘した.そのうえで,費用認識の根拠を現金報酬を擬制する,あるいは,報酬契約を資産とするといった別の根拠とするか,そうでなければストック・オプションの費用認識を中止することが理にかなっていると結論づけている.
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