研究概要 |
本研究の目的は,公的部門において整備されつつある業績情報および財務情報のアカウンタビリティを強化するために,管理会計がどのように設計・利用されているのかを明らかにすることにある。平成22年度におけるアカウンタビリティの基本概念に関する文献調査を踏まえて,平成23年度は,引き続き文献調査を進めるとともに,わが国の公的部門における実際の管理会計の設計・利用に関する情報収集を進めた。 わが国の公的部門では,1990年代後半から,一連の行政経営改革が進められてきた。行政経営改革のなかで本研究が注目するのは,業績情報と財務情報の関連づけ,とくに成果と予算を関連づける業績予算の構築である。業績予算は標準化された測定技法のようなものではなく,多様な設計アプローチの組み合わせからなる。業績予算には,業績情報の種類,予算の歳出区分,予算プロセスといった設計変数がある。 そこで本研究は,日本政府をリサーチサイトとして,2001年から10年間の業績予算の構築過程を振り返り,そのなかで複数の設計変数がどのように組み込まれてきたのかを検討した。その結果,日本政府における業績予算の構築過程には,予算プロセスに関与する関係者の複数化と政治家の関与の深化という一貫したパターンがみられることがわかった。このようなパターンは,日本の国家統治や民主主義のあり方に影響を与える可能性がある。業績予算の構築といった行政経営改革は,管理会計研究に民主主義の発展に寄与する機会をもたらすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では,平成22年度までは文献調査を中心に進め,平成23年以降は,文献調査を踏まえて特定のリサーチサイトにおける資料収集を進めるとしていた。計画どおりに,平成23年度には,日本政府に関する資料収集を進めることができた。さらに,その成果については,日本管理会計学会にて研究報告を行っており,これも研究計画どおりである。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度も,引き続き文献調査を進めつつ,特定のリサーチサイトに関する情報収集を行う。そうした研究方法については計画どおりであるが,具体的な研究内容には一部変更がある。それは,研究計画が地方自治体の情報収集を想定していたのに対して,現在は日本政府(中央政府)の情報収集に比重を移しつつあることである。その理由は,平成22年度の文献調査のなかで,新たに,公的部門のアカウンタビリティに関する国際比較の視点が加わったためである。また,民主的な国家統治と管理会計の研究という視点からも,,今後とも中央政府の情報収集を進める必要があることがわかった。
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