本研究は、総合的利益管理としての原価企画のあるべぎ姿を、イノベーション・マネジメントにおける戦略コントロール・システムとして想定し、これを解明することを最終目的としている。平成22年度は、原価企画によるイノベーション(経済効果をもたらす革新)の創出という研究課題に取り組む基礎を固めるため、文献調査・研究を実施し、イノベーション・マネジメント論の枠組みにおける原価企画の位置づけと論点の明確化を試みた。その結果、イノベーション・マネジメント研究では、戦略マネジメント論に依拠した枠組みが構築されつつある点や、原価企画への言及が散見される点などの知見が得られた。これらは、新製品開発に伴う戦略的コストマネジメントとして認識されてきた原価企画を、イノベーション創出を支援する戦略マネジメント・システム(とりわけ戦略コントロール・システム)として再認識する必要性を示唆するものであり、本研究の今後の展開にとって基盤となる重要な知見である。また、原価企画研究では、知識創造理論に依拠した原価企画研究が連続的イノベーションの創出に関わることから、原価企画はイノベーションの類型の中でも漸進的イノベーションと親和性が高い点が示唆される。ところがその一方で、従来の原価企画研究では、様々なイノベーション概念が混在しており、原価企画においてイノベーションは導入されるものか(両者は別々に存在するのか)、それとも創出されるものか(両者は付随して生じる/生じないのか)というイノベーションと原価企画との関係性についての論点が明確になった。以上の諸点から、イノベーション創出を支援する戦略コントロール・システムとして原価企画を位置づけた上で、多様なイノベーション概念すなわちイノベーションの類型と原価企画との関係性を究明していくことが、本研究の今後の研究課題となった。
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